著者プロフィール
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト 野口 真人

1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間450件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価に育てる。これまでの評価実績件数は2000件以上にものぼる。トムソンロイターによる2014年・2015年M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座で教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『あれか、これか「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)、『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など

第四話 ファイナンスは「価値」をこう考える

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」と言えば、世界で最も有名な絵画の1つだ。この絵にはどれくらいの価値があるのだろうか? モナ・リザともなると、将来的にオークションにかけられる可能性はほとんどないだろう。それに、オークションで決定される価格が、本来の価値を必ずしも正確に反映しないということは、前章ですでに見たとおりだ。
とはいえ、もともとモナ・リザは最初から世界的絵画として扱われたわけではなかった。20世紀以降、徐々にこの絵画に対する評価が高まっていき、1962年にはアメリカでモナ・リザに保険をかけるための査定が行われたという。

その結果、この絵には1億ドルという評価がなされ、あまりに高額な保険料を引き受ける人がいなくなってしまった。なお、物価変動も加味すると、1962年の1億ドルは2015年時点の7億3000万ドル(1ドル110円換算で約800億円)相当になる。そこで、保険に多額をつぎ込む代わりに、保安監視に予算が充てられることとなったそうだ。
この査定額にどのような根拠があったのかについてはまったく知らされていない。保険の引き受け手がいなかったことを考えると、信憑性に欠ける数字にも思えてくる。

ファイナンスはすべてのものの価値を「金銭的価値」に置き換える。では、ファイナンスはモナ・リザの価値をいったいいくらだと見積もるのだろうか? その考え方をお伝えしていくことにしたい。
価値評価の方法として、すでに原価法(コスト・アプローチ)と取引事例比較法(マーケット・アプローチ)については検討し、それぞれには弱点があることを確認した。これに対してファイナンスが採用するのが、キャッシュフロー・アプローチである。

■「モナ・リザ」をいくらで買いますか?

キャッシュフロー・アプローチとは、「モノの価値はそれが生み出すお金の量によって決まる」という考え方である。あるモノが生み出すお金のことをキャッシュフローと呼ぶ。たとえば、月10万円の家賃のマンションには年120万円のキャッシュフローがある。このように、あるモノがどれくらいのキャッシュフローを生む力(稼ぐ力)を持っているかという観点で、モノの価値を考えるのがファイナンスである。
銀座のコーヒーが1000円するのは、銀座のカフェにそれに1000円のキャッシュフローを生み出す力があるからだ。そのカフェが入っているビルが100億円で売られているとしたら、それに相当するテナント料を稼ぐ力があるからだ。
キャッシュフロー・アプローチをとると、世の中の見え方が大きく変わってくる。また、パンダや芸術作品や、果ては人間まで、一見すると評価不可能と思われるものでさえも、その価値を測ることが可能になるのだ。

では、モナ・リザが稼ぐキャッシュフローに着目すると、その価値はどうなるだろうか? 考えてみよう。
現在、ルーヴル美術館の入館料は15ユーロだ。年間の入場者数は年間900万人で世界1位、第2位の大英博物館の600万人を圧倒している。
そのうちモナ・リザの絵が目当ての入館者は、全体の1割の90万人と見積もろう(これに根拠はないが、知りたければサンプル調査をとればいい)。
ここで、モナ・リザが貢献する年間のキャッシュフローを計算すると、1350万ユーロ(15ユーロ×90万人)となる。今後、モナ・リザ人気が少なくとも50年続くとすれば、総キャッシュフローは6億7500万ユーロだ。1ユーロ125円で換算すれば、ざっと840億円の価値ということになる。
だとすると、1962年の評価額800億円は、まんざらデタラメでもなかったのかもしれない。

講師紹介メニュー