請求書DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、請求書の受領・発行・確認・支払いまでをデジタルでつなぎ、処理のあり方を見直す取り組みです。紙の削減にとどまらず、取引先ごとに異なる形式や分散した受領経路、人手不足による業務負担に対応し、経理を経営支援へ振り向けることが今の企業の課題です。
このレポートは、2025〜2026年開催の「請求書DX」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、紙の電子化と全社展開から、受領・発行を含む業務全体の再設計へ、さらにAIによる処理の自律化へ移りました。一貫しているのは、人手と時間を削減し、経理を経営支援へ振り向ける問題意識です。近年は特に、AIエージェント(業務を自律的に進めるAI)による仕訳・確認・承認の補助と、工程全体の連携が議論されています。
2026年(AIファーストで請求書処理を「入力」から再設計)
2026年、企業が請求書DXで直面しているのは、紙をなくすことだけではありません。手書きや取引先ごとに異なるフォーマット、メール・FAX・Webダウンロードなど分散した受領経路、明細の仕訳や稟議との突合といった、請求書を受け取った後に残る判断・確認作業です。多店舗展開では店舗別・勘定科目別の集約も負担になり、経理担当者だけでなく現場の申請者や承認者まで処理の停滞に巻き込まれます。IPA「DX動向調査」でも、デジタル化はツール導入にとどまらず、業務や組織の変革につなげることが課題として挙げられています。
これまでの対策は、紙のスキャンやOCRによって入力を減らすことに重点が置かれていました。しかし、読み取り精度が手書き文字や複雑なレイアウトに追いつかず、結局は人が修正・再入力するケースが残りました。自動学習するAIであっても、複雑な請求書では意図した仕訳に結び付かないことがあります。また、書類をデータ化しても、未決裁の支払いを見抜く稟議との照合や、受領漏れの防止まで自動化できなければ、支払リスクと月末の集中負荷は解消しません。前年に見られた「紙文化からのデジタル化」や「創出した時間をコア業務へ振り向ける」という段階から、処理全体の再設計へ課題の焦点が移っています。
そこで2026年の取り組みは、単なるOCR導入から、AIを業務フローの前段に組み込む方向へ変わりました。株式会社TOKIUMは、紙・FAX・メール・Webなどの請求書を現場で受け取らずに集約し、さらに「TOKIUM AI納品明細」で手書きや独自フォーマットの書類から必要項目をデータ化する考え方を示しています。請求書を受け取ってから入力するのではなく、受領時点で処理可能なデータへ変える発想です。株式会社LayerXも、請求書・領収書からの申請作成、AIエージェントによる一次チェック、承認経路の自動分岐、税率ごとの仕訳分割を一連の運用として扱っています。人が確認する箇所を残しながら、差し戻しや定型判断を前工程で減らす設計です。
この変化を象徴するのが、AIの適用範囲を「読み取り」から「業務判断の補助」へ広げた2社の事例です。株式会社TOKIUMの取り組みは、従来なら入力担当者が吸収していた書類のばらつきを、AIによる明細抽出と受領代行で処理の入口から標準化しようとしています。株式会社LayerXの取り組みは、入力後に人が行っていたチェックや承認経路の判断まで自動化の対象にしています。掲載情報では、離職率や処理時間などの定量的な成果までは示されていません。ただし、請求書が届いた時点で「ほぼ処理完了」を目指し、仕訳・突合・承認の手作業を減らすところまで実装の射程が広がったことは確認できます。
複数の講演から読み取れる共通点は、請求書DXの成果を「何枚読み取れたか」ではなく、「人が介在する工程をどこまで減らせたか」で捉え始めたことです。AI-OCRの精度競争だけでなく、受領、明細化、仕訳、申請、承認、支払いまでをつなぎ、例外だけを人が扱う形へ移行しています。総務省「情報通信白書」が示すデジタル活用の論点とも重なる、業務プロセス全体の変革です。翌年は、AIエージェントが処理を代行するだけでなく、例外処理の学習、監査証跡、部門別の支出管理まで担い、経理の役割を入力・確認中心から統制と意思決定支援へ変えることが焦点になります。
2025年(紙の完全撤去が迫る、請求書DXの業務再設計)
2025年の請求書DXで企業が直面していた中心課題は、紙の削減そのものではなく、請求書処理に奪われていた人手と時間を、経理・財務が本来担うべき業務へ振り向けられないことでした。建設業では人手不足や長時間労働が重なるなか、株式会社竹中工務店が年間20万件の紙の請求書を処理していたことは、請求書業務が現場だけの問題ではなく、企業全体の生産性に関わる問題になったことを示しています。IPA「DX動向調査」でも、デジタル化を進める際には業務変革や人材の確保・活用が課題として挙げられています。請求書DXは、経理部門の効率化策から、全社の働き方を変えるテーマへ広がりました。
これまでの対策では、受領業務だけを電子化したり、紙をスキャンしてデータ化したりするだけでは不十分になっていました。株式会社メディカル・プリンシプル社では請求書の受領業務がDX化されていた一方、発行業務には手作業が残り、時間やコストの負担が続いていました。つまり、受け取る側だけを変えても、発行、確認、社内処理までの分断は解消されません。経済産業省「DXレポート」が示してきた、既存業務を部分的に置き換えるだけでは事業変革につながらないという論点は、請求書領域にも当てはまります。2025年は、個別作業のデジタル化から、請求書業務全体の再設計へと対策の軸が移りました。
変化の方向を象徴するのが、受領と発行を分けず、紙を前提とした業務プロセスそのものを見直す取り組みです。株式会社竹中工務店は紙文化が根強い建設業界で、年間20万件の請求書をデジタル化する判断に踏み切りました。ここで重要なのは、単にツールを導入したことではなく、現場と経理の双方を巻き込む大規模な変革として進めた点です。一方、株式会社メディカル・プリンシプル社は発行業務のDXを進め、業務負担を大幅に軽減しました。その結果、バックオフィスが社内全体のDX推進や働きやすい環境づくりに、より注力できる状態を生み出しています。この事例が示すのは、請求書DXの成果が処理時間の削減だけでなく、部門の役割転換にまで及ぶことです。
さらに、野村不動産ホールディングスは請求書業務の完全電子化を実現し、経理業務から紙を取り除くことで大幅な業務効率化につなげました。社内展開を円滑に進め、導入効果を最大化する工夫まで重視している点からは、2025年の焦点が導入可否から定着と全社展開へ移ったことが分かります。共通しているのは、紙を電子データに変えるだけで満足せず、受領・発行・社内処理をつなぎ、浮いた時間をDXや経営支援へ再配分していることです。翌年の掲載情報でAIによる明細入力、自動仕訳、AIエージェントが前面に出てくるのは、この土台が整い、請求書DXの競争軸が「電子化」から「処理の自律化」へ進んだためです。
全体を通じて、掲載講演では、紙の撤去や入力削減を出発点に、受領・発行・仕訳・承認・支払いをつなぎ、人が介在する工程を減らす構図が示されています。2025年の全社的な業務再設計を土台に、2026年はAIの適用範囲が読み取りから業務判断の補助へ広がっています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「請求書DXの成功事例」をテーマにした講演情報を元に傾向を分析しています。
※市場環境の参照:IPA「DX動向調査」、総務省「情報通信白書」、経済産業省「DXレポート」
編集者:ビズスタ市場調査チーム