新卒採用とは、将来の事業を担う人材と出会い、入社後の定着や活躍まで見据えて組織との関係を築く取り組みです。少子化で母集団形成が難しく、活動の早期化・長期化や人材獲得競争も進むなか、採用部門だけでなく経営と現場が、学生との相互理解、配属、育成を一体で設計することが大企業の課題となっています。
このレポートは、2021〜2026年開催の「新卒採用」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、コロナ禍の「会えない採用」への対応から、DX(デジタルトランスフォーメーション)による採用・育成の再設計、さらにAI(人工知能)を使った運営効率化へ移ってきました。一貫しているのは、学生との相互理解を深め、採用を入社後の定着・活躍につなげる問題意識です。近年は特に、候補者情報の整理や離脱兆候の把握、個別連絡の自動化と、現場社員を交えた関係づくりの議論が増えています。
2026年(AIファースト時代、新卒採用は「接点」から「関係」へ)
ビズスタに掲載されている2026年の新卒採用関連情報から浮かぶ中心課題は、採用予定数を満たすことそのものより、早期化・長期化する選考の中で学生との関係を維持し、入社後に活躍する人材を確保することです。少子化による母集団形成の難しさに加え、新卒採用と中途採用、第二新卒採用を組み合わせなければ人材を安定的に確保しにくくなっています。内定辞退や配属後の定着・戦力化までが採用部門の課題になっており、厚生労働省「厚生労働白書」が示す人材確保や職場定着の課題とも重なります。前年までの焦点が早期接触や学生への動機づけだったとすれば、2026年は採用から入社後までを一続きの経営課題として捉え直す段階に入っています。
従来の対策では、求人媒体やイベントで母集団を集め、選考を進め、内定後に人事がフォローする分業型の運用が中心でした。しかし、接触時期が早まり、学生が複数社を比較する状況では、接点の数を増やすだけでは志望度を保てません。人事主導の一律な説明や内定者フォローも、現場の仕事や職場の実態を十分に伝えられず、入社後のミスマッチにつながります。そこで歩留まりを細かく把握して改善する定量管理や、会えない期間の自動化が重視され始めました。AIファーストの採用運営なら、候補者情報の整理、離脱兆候の把握、個別連絡の下書きや配信を効率化できます。ただし、AIで事務負担を減らせても、学生が会社を理解し共感する過程まで代替できるわけではありません。
変化の本質は、採用を「選考の管理」から「関係の設計」へ移すことです。大和ハウス工業株式会社と川崎重工業株式会社の取り組みでは、採用を個人と会社の関係構築の起点と捉え、学生を自社の共感者、いわばファンへ変えていく発想が示されています。人事だけで魅力を伝えるのではなく、現場社員との接点を通じて仕事内容や価値観を相互に確かめる方向です。これは単なる内定承諾率の改善策ではなく、入社後のエンゲージメントを見据えた採用への転換です。両社について掲載概要に具体的な改善数値はありませんが、採用の成果を「採用人数」だけでなく、関係の質や入社後の活躍可能性まで広げた点に意義があります。
複数の掲載情報を横断すると、2026年の潮流は、現場参加、定量的な歩留まり管理、会えない期間の自動化、第二新卒を含む人材ポートフォリオ化の組み合わせにあります。重要なのは、効率化と対人接点を対立させないことです。データやAIは候補者の離脱を防ぎ、担当者の工数を減らす手段になりますが、最終的な選択を支えるのは現場との相互理解です。翌年は、こうした関係構築が内定承諾、入社後の早期活躍、定着にどこまで結び付いたかを、採用ファネルと人材育成の指標で検証する段階へ進むでしょう。
2025年(大学入試の変化が迫る、早期化新卒採用の再設計)
2025年の新卒採用で企業が直面した中心課題は、学生との接点をつくる時期そのものが変わり、従来の採用計画では動き始めた学生に届かなくなっていることです。掲載された講演では、採用トレンドの変化を大学入試との関係から捉え、Z世代の傾向と採用活動の早期化を同時に考える必要性が示されています。企業側が採用広報や選考時期を調整するだけでは、学生が進路を考え始める前後の行動変化に対応しきれません。文部科学省「大学入学者選抜改革について」でも、入試を取り巻く環境の変化や多様な選抜の在り方が課題として挙げられており、新卒採用は就職活動だけを見て設計できない段階に入っています。
2024年までの掲載情報では、母集団形成、採用ブランディング、候補者体験、内定者フォローなど、企業を知った後の志望度を高める施策に重点が置かれていました。しかし、接点の量を増やし、情報発信を改善するだけでは、学生が企業を比較する前に形成される認知や関心を捉えにくくなっています。2025年は、採用活動を選考期間の施策としてではなく、学生の進路形成に合わせて長期的に設計するものへと再定義する動きが見えます。早期化への対応も、単に日程を前倒しするのではなく、どの時期に何を伝え、どのような関係を築くかを組み直すことが焦点になりました。
この変化を象徴する存在が、講演に登壇した株式会社ベネッセi-キャリアです。矢竹秀行氏は、大学入試を起点に採用トレンドを捉え、Z世代の傾向を踏まえて新卒採用戦略を設計する視点を提示しています。掲載概要には採用人数や承諾率などの数値成果は記載されていませんが、重要なのは、採用担当者の経験則だけで学生を追うのではなく、学生が置かれている教育・進路環境の変化を前提に採用設計を考えている点です。この事例が示しているのは、採用成果を選考後の歩留まりだけで測るのではなく、早い段階での認知形成から接点の継続まで、一連のプロセスとして捉える必要性です。
複数年の掲載テーマを通して見ると、2025年の潮流は「学生を集める」から「学生の意思決定が始まる前から関係を設計する」への移行です。Z世代対応も、若者向けの媒体や表現を増やす話にとどまらず、大学生活や進路選択の実態に沿って情報提供の時期と内容を変える課題になりました。翌年には、この早期接点を個別管理し、内定承諾や入社後の活躍までつなぐ仕組みがより重視されるでしょう。2025年は、そのための採用マーケティングと人材獲得競争の土台が切り替わった年と位置づけられます。
2024年(採用競争を母集団争いから入社後の活躍設計へ)
2024年の新卒採用で企業が直面した中心課題は、学生を集めることだけでなく、接点を持った学生に選ばれ、入社後も定着・活躍してもらうことでした。採用の早期化と長期化、売り手市場によって応募者の比較対象は広がり、従来の知名度や待遇の訴求だけでは母集団形成も内定承諾も安定しません。特に理系・IT人材では、専門性を理解できる現場との連携が欠かせなくなっています。厚生労働省「厚生労働白書」が示す雇用・人材をめぐる構造変化や、IPA「DX白書」が課題として挙げるデジタル人材不足も、新卒採用を経営課題へ押し上げる背景になっています。
前年までの対策は、早期接触、インターンシップ、SNS、スカウトなどによって学生との接点を増やす方向に広がっていました。しかし2024年には、接点の数を増やしても応募や承諾につながらない問題が明確になりました。インターンシップが自社理解の機会にとどまり、学生の志望動機を形成できないケースや、内定者フォローが入社後の成長とつながらないケースも示されています。そこで企業の関心は、採用広報や選考を個別施策として運用することから、学生の価値観を把握し、自社のMVV、候補者体験、オンボーディングまでを一つの流れとして設計することへ移りました。生成AIによる採用業務の効率化も、単なる省力化ではなく、浮いた時間を対話や見極めに振り向ける手段として捉えられています。
この変化を象徴するのが三和建設株式会社です。採用と定着が難しい建設業界で、社員数を7年間で2倍近くに伸ばし、新卒社員の入社3年以内の離職率を2020年採用以降「ゼロ」としています。成果の背景には、経営理念に沿って経営陣と社員が企業像・社員像を議論し、若手が生活と成長をともに築く“ひとづくり寮”を整えた取り組みがあります。採用時の魅力づけを入社後の環境づくりまで延長した点が重要です。また、江崎グリコ株式会社とTOTO株式会社は、学生の本音を起点に候補者体験を見直し、高い満足度と良質なクチコミにつなげています。これは、企業が一方的に魅力を発信するのではなく、選考過程そのものを評価される接点として設計し始めたことを示します。
複数の掲載情報から読み取れる共通点は、採用の評価軸が「何人集めたか」から「どの学生と、どのような関係を築き、入社後の活躍に結びつけたか」へ変わったことです。Z世代への訴求ではSNSやデータ分析が使われ、理系採用では大学・研究室や社員との接点が重視され、選考では共感や価値観の可視化が試みられました。成果はまだ企業ごとに差があるものの、三和建設株式会社の離職率ゼロや、生成AI活用による採用業務90%効率化、インターンシップ経由の内定承諾者10名から20名への増加は、施策が実績に結びつく範囲を示しています。翌年以降は、採用データと入社後の活躍・定着データを接続し、AIで業務を自動化しながら、人にしかできない相互理解を深める設計が焦点になります。
2023年(母集団争奪から、選ばれ続ける新卒採用へ)
2023年の新卒採用は、応募者を集めて選考する前提そのものが揺らいだ年です。生産年齢人口の減少に加え、就職活動の早期化・長期化で学生の意思決定が前倒しされ、企業は母集団不足、選考辞退、内定辞退、入社後のリアリティショックを同時に抱えていました。厚生労働省「厚生労働白書」でも、人口構造の変化や人材確保が課題として挙げられています。特にITエンジニアやAI・データ分析人材は新卒にも採用対象を広げなければならず、単なる採用人数の充足ではDXや事業成長に結びつかない状況でした。
従来の就職ナビ、合同説明会、知名度に依存した大量集客は、学生の選択肢が増えた環境では効率が落ちました。接点を増やしても、学生が自社で働く理由を理解できなければ離脱し、内定を出しても他社に流れます。そこで対策は、採用広報、母集団形成、選考、内定者フォローを別々に改善するものから、学生の認知や感情の変化を一続きで設計するものへ移りました。SNSやコミュニティ、学生調査、採用管理システムを組み合わせ、早期に接点を持ちながら、個々の志向に応じて情報や対話を変える発想です。IPA「DX動向調査」が示すデジタル人材確保の課題も、採用部門だけでなく事業や現場を巻き込む必要性を浮かび上がらせました。
この変化を端的に示すのが、株式会社あつまるの集客事例です。55人の会社でありながら説明会に2000名を集めた実績は、企業規模や知名度を補うために、採用マーケティング、コピー、媒体、イベント、運用体制を一体化した点に意味があります。一方、株式会社アローリンクでは、内定後に学生の感情を動かすコミュニケーションを重視し、内定承諾率を45%から70%へ改善しました。さらにパイオニア株式会社は、情報系学生との接点を単なる会社説明にせず、ハッカソンを軸にしたインターンシップとして設計しています。この事例が示しているのは、採用の成果を応募数だけでなく、理解、志望度、承諾までの歩留まりで捉え直したことです。
複数の事例に共通するのは、「広く集める」から「合う学生に深く伝える」への転換です。学生の声やクチコミを起点にターゲットを定め、SNSやコミュニティで認知をつくり、選考中はタイプに応じて対話し、内定後は入社後のキャリアまで見せる。ChatGPTなど生成AIの採用活用も検討され始めましたが、2023年時点では人の理解と動機づけを置き換える段階ではなく、情報整理や業務効率化の可能性を探る段階でした。翌年は、採用広報や候補者体験の改善に加え、AIを使った選考・運用の効率化、採用と育成・定着をつなぐ設計へと焦点が移っていきます。
2022年(「集める採用」から配属・定着まで設計する採用へ)
2022年の新卒採用は、母集団を増やすだけでは解けない二重の難題に直面していました。採用活動の早期化・長期化によって学生との接点は前倒しされる一方、オンライン中心の選考では相互理解が浅くなり、優秀だと評価した人材が入社後に活躍しない、内定を出しても辞退する、早期に離職するといった問題が目立ちました。さらに、DX推進を担う情報系・理系人材の獲得競争も激しくなっています。IPA「DX白書」でも、デジタル人材の確保や育成は企業の課題として挙げられており、新卒採用は将来の事業人材を確保する経営課題へと重みを増しました。
前年までの対策は、オンライン説明会やスカウトで接点を増やし、選考を効率化することに重点が置かれていました。しかし、応募数や接点数を増やしても、学生が企業を理解し、入社後の仕事を具体的に想像できなければ、選考辞退や内定辞退は防げません。2022年は、適性検査やデータ分析によって入社後の活躍・定着まで見極める動きに加え、採用広報をマーケティングとして捉え直す動きが強まりました。企業が一方的に魅力を伝えるのではなく、職種、配属、キャリア、職場の実態を示し、学生との相互理解を選考の早い段階から積み上げる方向へ変化しています。
その変化を端的に示すのが、株式会社リソースクリエイションの取り組みです。社員自身がTikTokやInstagramで会社の日常を発信する「社員インフルエンサー」を活用した結果、新卒応募は6.5倍、中途応募は20倍に増加しました。これは単なるSNSによる認知拡大ではなく、従来の求人情報では伝えにくかった職場の雰囲気を、候補者が具体的に理解できる形へ変えた事例です。一方、パナソニックグループは事業会社ごとの職種別選考を導入し、事業内容に沿った人材確保と自立したキャリア形成を目指しました。企業名や総合職という枠で惹きつけるのではなく、入社後の役割を明確にして志向との適合を高める発想です。
採用後まで含めた設計では、株式会社NTTデータユニバーシティの新人SE研修が象徴的です。NTTデータグループでは、1200人規模の新入社員を対象に、入社前のスキルテストで習熟度を把握し、スキル別階層研修とオンラインでの進捗可視化、リアルタイムのフォローを組み合わせました。未経験者を含む人材を採用しながら、研修で挫折させない仕組みを整えた点に意義があります。共通するのは、採用を「獲得」で終わらせず、認知、選考、内定、配属、育成を一続きの体験として設計したことです。2023年に向けては、インターンシップからの早期接触がさらに強まり、採用広報の継続運用、職種別の見極め、内定後の関係構築を一体化できる企業ほど、採用競争への対応力を高める流れになりました。
2021年(コロナ2年目、「会えない採用」を設計し直す)
2021年の新卒採用で企業が直面した中心課題は、対面接点を失ったまま、早期化する学生の動きに対応し、必要な人材とつながることでした。オンライン説明会や面接は定着しつつありましたが、企業理解や志望度、入社後の活躍可能性まで画面越しに見極める難しさが残りました。さらにDXの進展で、従来の一括採用では確保しにくいソフトウェアエンジニアやAI人材も求められました。IPA「DX白書」が指摘するデジタル人材の確保・育成の課題は、新卒採用にもそのまま表れています。雇用環境の変化や若年層のキャリア意識を踏まえる必要性は、厚生労働省「厚生労働白書」からも読み取れます。
それまでの対策で足りなくなったのは、募集から入社までを一つの体験として設計する視点です。大手ナビや一斉説明会で母集団を集め、面接で選ぶ手法は、「会える」ことを前提に成立していました。しかしオンライン化によって、情報量の多さよりも、学生が自分に合う仕事かを判断できる情報の質と、選考中のコミュニケーションが重要になりました。2021年の掲載情報では、インターンシップの実施そのものではなく、個別オファーによる早期接触、動画の複数媒体展開、候補者体験の改善へと論点が移っています。採用担当者の勘や一律の施策から、対象人材を定義し、接点ごとの反応を見ながら手法を組み替える方向への変化です。
この転換を象徴するのが、採用を「選抜」だけでなく「関係づくり」と捉え始めた企業の動きです。ソフトバンク株式会社では、学生の声を含む40万件以上のクチコミを手がかりに、自社側の盲点を見直し、候補者体験の質を高めることが採用成功の軸とされました。ヤフー株式会社は、リモートシフト下で内定者フォローのあり方を見直し、入社前の接点をオンライン環境に合わせて再設計しています。株式会社コンセントの新卒採用サイト制作では、Adobe XDの共同編集によって、リモート環境でもデザイナー、ディレクター、エンジニアが作業状況を共有できました。この事例が示すのは、採用広報の成果だけでなく、制作プロセス自体の可視化と協働が、オンライン採用の品質を支えるということです。いずれも、掲載概要から採用人数や辞退率などの数値成果までは確認できませんが、業務や接点をオンラインに置き換える段階から、体験と連携を設計し直す段階へ進んだことは確認できます。
複数の事例に共通するのは、企業都合の情報発信を減らし、学生が判断しやすい情報、個別化された接点、内定後まで続くコミュニケーションを組み合わせた点です。2021年は、オンライン採用が「代替手段」から「採用戦略の再設計」へ変わった年でした。一方で、成果は採用数の増加というより、ターゲット設定、候補者体験、社内協働といった仕組みの整備として現れています。翌年以降は、この流れが早期化・長期化への対応、職種別・ジョブ型採用、採用マーケティングやデータ活用へ広がり、採用担当者だけで完結しない経営課題として扱われるようになります。
全体を通じて、掲載講演では、母集団形成や選考の効率化だけでなく、認知・接点・選考・内定・配属・育成を一続きの体験として設計する構図が示されています。企業都合の一律発信から、学生の価値観や進路形成を踏まえた個別接点、現場との相互理解、AIによる業務支援を組み合わせる方向へ、課題の中心が移っています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「新卒採用の成功事例」をテーマにした講演情報を元に傾向を分析しています。
※市場環境の参照:厚生労働省「厚生労働白書」、文部科学省「大学入学者選抜改革について」、IPA「DX白書」、IPA「DX動向調査」
編集者:ビズスタ市場調査チーム