人材採用とは、事業に必要な能力を持つ人材を見極め、組織で活躍・定着できる状態まで設計する取り組みです。働き方や事業環境が変わり、デジタル人材や専門人材の獲得競争も強まるなか、採用を人事部門だけでなく経営と事業の課題として捉えることが、大企業に求められています。
このレポートは、2021〜2025年開催の「人材採用」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、働き方の変化への対応から職務起点の採用、デジタルトランスフォーメーション(DX)人材の確保と活躍・定着、AI活用へ移りました。一貫しているのは、採用を事業に必要な能力を蓄積する経営課題と捉える問題意識です。近年は特に、AIによる探索・評価の効率化と、未知の事業を動かす人材の要件定義・育成を一体化する議論が増えています。
2025年(AIファースト時代に採用を新規事業の実行力へ変える)
2025年の人材採用で企業が直面していた中心課題は、既存事業の欠員を埋めることではなく、正解のない市場を開拓できる人材をどう確保し、育てるかという問題です。ビズスタに掲載されている講演情報では、宇宙市場のような未知の領域で、国家宇宙機関や国際NGOとの連携を含む事業開発に取り組む過程が、人材採用・育成と一体のテーマとして扱われています。経済産業省「未来人材ビジョン」でも、産業構造の変化に対応する人材の確保と育成が課題として挙げられており、採用は人事部門だけの業務ではなく、経営と事業開発の論点になっています。
2024年までの掲載講演では、採用ブランディングによる母集団形成、エージェント活用、面接精度、デジタル人材の獲得、離職防止など、採用プロセスの各段階を改善する方法が目立ちました。しかし、採用市場の競争が激しく、事業そのものが変化するなかでは、候補者を集めて選ぶだけでは不十分です。どのような市場をつくるのか、そこで誰が意思決定し、どんな能力を組織に蓄積するのかまで示せなければ、採用は事業成果につながりません。2025年は、採用を「人を補充する活動」から「未知の事業を動かす仕組み」へ再定義する必要が強まりました。
この変化を象徴するのが、Cross Space & Sustainability, LLCの黒須聡氏が語った、宇宙市場の立ち上げです。未知の市場で戦略を定め、外部機関と連携しながら、スピードを重視して意思決定し、人材を採用・育成する進め方が示されています。クー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏との対話は、採用を単独の施策としてではなく、市場創造に必要な役割や能力を設計するプロセスとして捉え直す点に意味があります。定量的な売上や採用数の成果までは掲載概要に示されていませんが、実際に変わったのは、採用・育成を戦略策定と意思決定の近くに置く進め方です。
複数の登壇者の論点から読み取れる共通点は、採用成功の尺度が応募数や選考通過率だけではなく、事業の不確実性に耐える組織能力へ移ったことです。AIファーストの環境では、AIで候補者情報を処理するだけでなく、定型的な探索や評価を効率化し、人間は事業仮説の構築、関係者との連携、育成設計に集中することが求められます。2025年の潮流は、採用担当者を採用プロセスの管理者から、事業に必要な能力を定義する設計者へ変えることでした。翌年は、AIを組み込んだ人材要件の更新、採用後の学習、成果検証までを一つの循環として運用できるかが焦点になります。
2024年(採用数競争から、活躍・定着までを設計する人材採用)
2024年の人材採用は、必要人数を集めるだけでは事業成長につながらないという問題に直面していました。特にデジタル人材やエンジニアは、事業変革に欠かせない一方、採用競争が激しく、内定辞退や入社後の早期離職も起こりやすい領域です。厚生労働省「厚生労働白書」でも、労働力の確保と人材の定着、働く人の価値観への対応が課題として挙げられています。従来の求人媒体、待遇改善、エージェント活用だけでは、候補者に選ばれる理由や、入社後に活躍できる条件まで伝え切れなくなっていました。
掲載された講演情報から見える変化は、採用を「母集団形成」「選考」「内定承諾」「定着」に分断せず、一つの体験として設計し直す動きです。採用ブランディングでは、企業が伝えたい情報ではなく、候補者が知りたい仕事や価値観を発信し、内定辞退の抑制まで見据えます。デジタル人材では、現場のニーズをもとにペルソナとスキル基準を作り、採用直結型インターンや生成AIの影響を踏まえて選考を更新します。さらに、面接官の経験や勘に頼らず、活躍・離職・エンゲージメントに関するデータから自社に合う人材像を見定める方向へ進みました。
その方向性を示す事例が三つあります。ソフトバンク株式会社は、地方創生インターンやAI動画面接を組み合わせ、優秀なIT系学生との接点と選考方法を広げました。株式会社日立製作所は、労働人口減少や事業戦略の転換を前提に、従来型の採用戦略から事業成長に結びつくタレントアクイジションへ軸足を移しています。日本電気株式会社(NEC)では、採用ブランディングによって母集団形成と内定辞退率の軽減を目指す取り組みが示されました。いずれも採用チャネルを増やしただけではなく、候補者との接点、事業との接続、入社後の適合を一体化している点が重要です。一方、掲載情報では具体的な改善率などは示されておらず、成果は施策の実装と再現可能な採用プロセスの構築まで確認できる段階です。
複数の講演に共通するのは、採用の成否を応募者数や採用人数だけで測らず、内定承諾、戦力化、定着、エンゲージメントまで追う考え方です。エージェントとの関係も発注先から採用チームの一員へと見直され、候補者への訴求内容や推薦の質をともに改善する対象になりました。IPA「DX動向調査」が指摘するデジタル人材確保・育成の難しさを背景に、2024年は採用担当者だけの活動から、経営、現場、広報、データ活用を束ねる仕組みへ転換した年といえます。翌年は、AIを使った選考効率化にとどまらず、採用後の活躍予測や配置、育成との連動をどこまで実証できるかが焦点になります。
2023年(採用競争を福利厚生・発信・経営課題から組み替える)
2023年の人材採用で企業が直面した中心課題は、即戦力、とりわけIT・AI人材を必要な時期に確保できないことでした。加えて、採用しても転職される不安が強まり、採用と定着を別々に扱えなくなっています。IPA「DX動向調査」でも、デジタル人材の確保・育成は企業の課題として挙げられています。物価高騰による従業員の生活不安も重なり、採用市場で選ばれる条件と、入社後に働き続ける理由を同時に整える必要が生じました。
それまでの対策は、求人媒体やエージェントを増やし、経験者を中心に採用する母集団形成が軸でした。しかし、競争が激しい職種では同じ人材を企業同士で取り合うだけになり、採用担当部門だけの工夫では限界が見えています。管理部門の採用・定着を扱った掲載情報でも、IT活用、外部採用、定着率向上を一体で進める必要性が示されています。厚生労働省「厚生労働白書」が示す働き方や人材をめぐる変化も踏まえると、給与や職種条件だけでなく、経営の関与、職場の実態、成長機会まで含めて採用を設計する段階に移ったといえます。
企業の取り組みは、採用活動の効率化から、候補者との接点と社内の働き続けやすさを経営課題として組み替える方向へ変わりました。ビズリーチの掲載講演では、経営者が採用手段を主体的に考え、能動的に実行することが重視されています。スキルアップAI株式会社の講演は、実務経験者に偏らず、新卒AI人材を面談記録や調査データから見極める発想を示しました。さらに株式会社ベネフィット・ワンでは、福利厚生を単なる付加制度ではなく、インフレ対策、エンゲージメント、リテンションを結び付ける施策として捉えています。
この変化を象徴するのが、まずビズリーチの製造業向け支援です。採用を人事の採用枠内に閉じず、経営者や事業側が自社で採れる手段を考える実践へ広げています。成果として具体的な採用数は掲載情報から確認できませんが、製造業に特化したコンサルティングチームを組成し、業界課題に沿って支援方法を変えた点に意味があります。スキルアップAI株式会社では、AI・データ分析職を志望する学生500名への面談・調査をもとに、新卒にも実務経験者と同程度の知識を持つ人材がいる可能性を示しました。株式会社ベネフィット・ワンは、賃上げだけに依存せず、従業員ニーズの変化に合わせた福利厚生を採用・定着策へ接続しています。
共通するのは、採用を「人を集める作業」から、候補者の認知、選考、入社後の体験、能力発揮までを設計する取り組みへ広げたことです。発信を通じて企業や個人の成長可能性を伝える動き、兼業・副業人材を短期の課題解決に活用する発想も、固定的な雇用だけに頼らない流れを補強しています。一方、2023年の掲載情報では、成果は施策の導入や新たな採用経路の開拓として示されるものが中心で、離職率や採用期間などの定量的な効果まで確認できる事例は限られます。翌年は、採用ブランディングやデータ活用を、内定承諾、定着、活躍といった成果指標で検証する段階へ進むことになります。
2022年(DX人材採用を「募集」から「事業実行能力の設計」へ)
2022年の人材採用では、単に応募者を増やすことより、事業の変化に対応できる人材をどう定義し、獲得し、活躍させるかが中心課題になりました。特にDXを進める企業では、専門人材の不足に加え、採用後に能力を発揮できるポジションや組織づくりもボトルネックでした。新卒採用でも活動の早期化やオンライン化によって学生の行動・職業観が変わり、従来の採用担当者中心の運用では経営戦略との接続が難しくなっています。IPA「DX白書」でも、デジタル transformationを進める人材の確保と育成は重要な課題として挙げられています。
それまでの対策は、求人情報の拡充、広告媒体の活用、面接の迅速化、知名度や待遇の向上といった「採用力」の強化が中心でした。しかし、採用競争が激しくなるほど、条件を改善して母集団を集めるだけでは、必要な能力とのミスマッチや入社後の定着・活躍まで解決できません。2021年に見られたジョブ型をめぐる議論から一歩進み、2022年は事業戦略から人材要件を逆算し、評価方法やオンボーディングまで一つの仕組みとして設計する方向へ重心が移りました。人材不足を採用部門だけの問題にせず、経営課題として扱う転換です。
その変化を示すのが、まず株式会社デジタルホールディングスです。DXを成長やV字回復の鍵と捉え、課題をDX人材の採用だけでなく、採用した人材が活躍する場づくりまで広げています。アドビ株式会社でも、カスタマーサクセス組織の変革に合わせて、人材採用・育成と組織づくりを一体で見直す考え方が示されました。株式会社リログループは、グローバル人材採用の基準をTOEICからCEFRへ変更し、2022年6月から実用的で正確な英会話力の可視化を構築しています。いずれも採用人数の拡大だけを成果とせず、必要な能力を定義し、測定し、活躍につなげる仕組みへ踏み込んだ事例です。
複数の掲載講演から共通して見えるのは、採用を「候補者を集めて選ぶ工程」から「事業を実行する能力を組み立てる経営システム」へ再定義したことです。DX人材では外部人材の活用や専門性に応じた接点づくり、グローバル人材では資格名より実務能力を測る基準、組織変革では採用後の育成とエンゲージメントが重視されました。一方、確認できる成果は、CEFRによる測定の導入や採用・育成プロセスの変更など、仕組みの実装が中心で、採用数や定着率の数値までは示されていません。翌年以降は、採用成功を内定獲得で終わらせず、活躍・定着まで測定すること、さらに採用を経営者や事業責任者が主導することが焦点になります。
2021年(ジョブ型論争が採用を職務起点へ引き戻した)
2021年の人材採用をめぐる中心課題は、コロナ禍で働き方と事業環境が急速に変わるなか、従来の一括採用や職能を前提とした人事制度では、必要な人材像を明確にできなくなったことです。企業は採用人数を確保するだけでなく、どのような仕事を任せ、どの能力を評価し、変化する事業にどう結びつけるのかを説明する必要に迫られました。厚生労働省「労働経済白書」でも、雇用を取り巻く環境変化への対応や、多様な働き方への適応が課題として挙げられています。2021年の論点は、採用手法の刷新というより、採用の前提そのものを問い直すことでした。
それまでの対策は、求人媒体の拡充、選考の効率化、研修による入社後の育成など、会社に人を合わせる発想が中心でした。しかし、職務の境界が変わりやすく、働く場所や時間も一律に定めにくい状況では、入社時点の適性だけを見ても、事業への貢献を捉えきれません。そこで浮上したのがジョブ型雇用です。ただし、講演で示された重要な点は、単に職務記述書を整備したり、成果主義へ移行したりすることではありません。KDDI株式会社の白岩徹氏、リクルートワークス研究所の中村天江氏らが議論したように、なぜ職務を起点にするのかを、採用・配置・評価・キャリアの一連の仕組みとして捉える必要がありました。
この変化を象徴するのが、KDDI株式会社の取り組みです。同社はジョブ型雇用に取り組み、採用を「会社に入ってから仕事を探す」仕組みから、「担う仕事や期待される役割を起点に人材と接点をつくる」方向へ動かそうとしていました。講演概要には、導入後の離職率や採用工数などの定量成果は示されていません。そのため、成果を数値で断定することはできませんが、少なくともジョブ型雇用を採用の議論にまで広げ、制度の導入理由と本質を問い直した点に進展があります。この事例が示しているのは、採用改革の成否が制度名称ではなく、職務と人材要件を経営課題に接続できるかで決まるということです。
複数の登壇者の議論から見える共通点は、採用が人事部だけの業務ではなく、事業の変化に応じて必要な役割を定義する経営課題になったことです。前年までの「ニューノーマルへの対応」が働き方の変更を急ぐ段階だったとすれば、2021年は、その変更に合わせて人材要件と雇用制度を再設計する段階へ移った年でした。もっとも、採用成果を生むには、職務の明確化だけでなく、候補者への伝達、現場管理職の運用、入社後の成長機会まで整える必要があります。翌年以降は、ジョブ型の理念を掲げるだけでなく、デジタル人材や専門人材など、経営戦略に直結する人材をどう見極め、採用競争のなかで選ばれる仕組みに変えるかが焦点になっていきます。
全体を通じて、掲載されたイベント・セミナーでは、採用を応募者獲得の工程にとどめず、職務や能力の定義から入社後の活躍・定着まで設計する構図が示されています。事業環境の変化に応じ、採用の主導主体は人事部門から経営・事業側へ広がり、直近ではAIを組み込んだ事業開発人材の確保・育成へ議論が移っています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「人材採用の成功事例」をテーマにした講演情報を元に傾向を分析しています。
※市場環境の参照:経済産業省「未来人材ビジョン」、厚生労働省「厚生労働白書」、IPA「DX動向調査」、IPA「DX白書」、厚生労働省「労働経済白書」
編集者:ビズスタ市場調査チーム