人材採用とは、事業に必要な能力を持つ人材を見極め、入社後に力を発揮できる状態までつなげる取り組みです。人手不足に加え、事業環境の変化が速く、既存の職務経験だけでは将来の役割を判断しにくくなっています。特に大企業では、採用を欠員補充にとどめず、新規事業や市場創造を担う人材をどう集め、育てるかが課題になっています。
このレポートは、2021〜2025年開催の「人材採用」に関連する講演をもとに作成されています。掲載素材で確認できる関心は、採用活動そのものから、事業の不確実性に対応する人材の採用・育成へ移っています。一貫しているのは、必要な人材を確保するだけでなく、事業の構想や成長に結び付けることへの問題意識です。近年は特に、新規事業開発の初期段階で、採用と育成を意思決定や市場創造のプロセスに組み込む議論が示されています。
不確実な新規事業を動かす人材を、採用と育成でどう確保するか
2025年に掲載された素材から見える課題は、既存事業の経験や定型的な職務要件だけでは捉えにくい人材を、未知の市場に向けてどう採用するかという点です。「宇宙市場から学ぶ BtoB新規事業開発のリアル」では、宇宙という未知の領域で市場創造をゼロから立ち上げる過程が取り上げられています。BtoB(企業間取引)の新規事業では、事業の正解や顧客があらかじめ定まっているとは限らず、採用する人材にも、決められた業務を遂行する力だけでなく、状況を見ながら戦略を組み立て、迅速に判断する力が求められるという課題が示されています。ただし、素材には採用難の具体的な数値や、採用人数、応募者の変化などは記載されていません。
解決の方向性として示されたのは、採用を単独の人事施策として扱わず、新規事業開発の一連のプロセスに組み込む考え方です。Cross Space & Sustainability, LLCの黒須聡氏とクー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏による講演では、国家宇宙機関や国際NGOなどとの連携、戦略策定、スピード重視の意思決定と並べて、人材採用・育成が扱われています。これは、事業の方向性を定めてから人を当てはめるのではなく、未知の領域で必要となる役割や能力を見極めながら、採用と育成を進める方向性です。実務に落とし込む場合も、選考時点で完成された専門性だけを見るのではなく、変化する課題への対応力や、外部組織と連携して進める力をどのように確認するかが論点になります。もっとも、講演で示されたのは解決方法の方向性であり、採用基準の具体例、選考手法、導入企業での定量成果までは確認できません。
2025年の素材には、採用・育成の考え方を実際に導入した企業の成果事例は含まれていません。そのため、採用期間の短縮、応募数の増加、採用人数の達成、新規事業の売上などを、導入後の成果として示すことはできません。導入前から導入後までの実装内容を追える企業事例がないことは、今回の範囲で明確に分かる限界です。また、素材上の代表登壇者として示された眞木麻美氏、進藤竜也氏、AdityaMaharaja氏、守屋尚氏についても、所属、役職、採用施策、成果に関する情報は記載されていないため、個別の取り組みや実績は判断できません。したがって、2025年に確認できるのは、未知の市場を開拓する組織において、採用と育成を事業開発の設計に含めるという提案段階の内容です。
2024年との違いについては、この欄に示された2024年の具体的な講演・事例素材がないため、詳細な比較はできません。少なくとも2025年の掲載素材では、人材採用が一般的な人員確保のテーマとしてではなく、宇宙市場のような未知の領域で市場をつくるための人材採用・育成として語られている点が特徴です。一方で、実際の企業導入と成果を裏付ける情報はなく、実装・提案段階から成果検証へ進んだかどうかは確認できません。
2024年
採用課題は、単に応募者を増やすことから、入社後に活躍し、定着する人材を見極めることへ広がっています。掲載された講演では、採用後に「何か違った」と評価されるミスマッチ、離職と採用の繰り返し、デジタル人材の不足、採用スピードの遅れが顕在化しました。母集団形成と内定辞退、コア人材や管理部門人材の採用難も、同時に解くべき課題として扱われています。
解決方法としては、経験や勘に頼る採用から、データと要件設計に基づく採用への転換が示されました。眞木麻美氏は、1億5千万人分のデータを基に、活躍や離職、エンゲージメントに関わる要因を分析し、書類選考や面接で確認すべきポイントを提示しました。進藤竜也氏も、実証研究を用いて離職率を下げ、優秀な人材を確保・維持する科学的アプローチを解説しています。デジタル人材については、ペルソナ設計、スキル基準、採用直結型インターン、生成AIの影響を踏まえた選考設計が方向性として示されました。
採用チャネルの面では、守屋尚氏がエージェントとの関係性を改善し、質のよい推薦を増やす方法を取り上げました。採用ブランディングによって母集団形成と内定辞退に対応する考え方や、ソフトバンク株式会社による地方創生インターン、AI動画面接なども解決方法として紹介されています。ただし、2024年の対象素材では、これらの取り組みを導入した企業の導入後の定量成果は確認できません。講演で事例や手法は示されているものの、採用数、承諾率、定着率などの実績としては確認できない段階です。
前年と比べると、採用の評価軸が「採用できるか」だけでなく、「入社後に活躍するか」「離職を抑えられるか」「事業に必要な人材要件を定義できているか」へ具体化しました。特にデジタル人材では、対象者の設定から母集団形成、選考、入社後の戦力化までを一つの採用スキームとして設計する方向が強まっています。
2023年
2023年には、採用難が特定職種だけの問題ではなく、即戦力人材、ITエンジニア、AI・データ分析人材、管理部門人材を含む広い経営課題として表れています。ITエンジニアの有効求人倍率が11倍とされ、AI系人材も売り手市場にある中で、経験者だけを狙う採用には限界が見えています。物価高騰や大転職時代を背景に、採用だけでなく従業員のエンゲージメントや定着まで含めて考える必要性も示されました。
講演で示された解決方法は、企業側から候補者に選ばれるための発信と、採用対象の広げ方です。武藤竜耶氏は、ITエンジニア採用における企業ブランディングや採用マーケティングを取り上げました。柴田健介氏らの講演では、エンジニア文化に根ざした情報発信が企業ブランドと人材採用につながる可能性が示されています。また、AI・データ分析職を志望する500名の学生への面談・調査を基に、新卒でも実務経験者と同程度の知識を持つ人材に着目する採用方法が示されました。
採用の担い手についても、採用担当だけに任せず、経営者が主体的に採用手段を考え実行する方向が示されました。福利厚生を採用・定着強化の手段として捉える考え方や、経営人材・ハイクラス人材の兼業・副業を活用する方法も紹介されています。一方、AdityaMaharaja氏の講演では、従業員のインサイト分析や成果予測を含むピープルアナリティクスが解決の方向性として示されました。ただし、2023年の対象素材では、導入企業名と導入後の定量成果が記された事例はなく、実際に採用数や定着率がどこまで改善したかは確認できません。
2022年と比べると、採用戦略の焦点が、経営戦略や職務要件を整えることから、候補者との接点を増やし、企業の魅力を伝え、選ばれる状態をつくることへ広がっています。新卒AI人材、情報発信、経営者の関与、福利厚生、兼業・副業など、従来の求人・選考以外の接点を組み合わせる発想が前面に出た点が、この年の特徴です。
2022年
2022年の課題は、事業変革に必要な人材を、従来の採用基準や採用手法では確保しにくくなったことです。DX人材の獲得と活躍の場づくりがボトルネックとなり、理系人材やデジタル人材の採用競争も激化しました。加えて、グローバル人材の採用強化、採用活動の早期化やオンライン化、税理士事務所など特定業界における人材不足も顕在化しています。
解決方法としては、まず経営戦略と人材要件を接続する考え方が示されました。作馬誠大氏と服部泰宏氏は、経営戦略に基づく新卒採用の方法論を取り上げ、採用を担当部門だけでなく経営陣の課題として捉えています。株式会社マネジメントサービスセンターの講演では、事業戦略を実行する人材要件を定め、面接、評価、オンボーディング、定着までを一体化する「タレント・セレクション・エコシステムズ」が示されました。株式会社リログループについては、グローバル人材採用強化に向け、TOEICからCEFRへ基準を変更し、実用的で正確な英会話力の可視化を構築する取り組みが紹介されています。
デジタル人材については、対象学生の動向を踏まえた訴求や、外部人材の活用が方向性として示されました。23卒理系院生1,895名の声を基にした採用戦略、学生から選ばれる企業の共通項、株式会社GIGの「Workship」を通じたDX人材採用支援などが取り上げられています。ただし、2022年の対象素材では、導入企業の採用数、選考通過率、定着率など、導入後の定量成果を確認できる事例はありません。紹介された方法は、実装・提案段階のものとして整理する必要があります。
2021年と比べると、採用の議論が雇用の型や制度の理念から、職種別の人材要件、能力の測定、候補者への訴求、採用後のオンボーディングへと具体化しました。特にDXやグローバル人材では、誰を採るかを明確にし、その能力を測り、事業戦略に結びつけることが採用成功の条件として前面に出ています。
2021年
2021年は、ニューノーマルへの移行によって、雇用制度と人材採用の前提が揺らいだ年として整理できます。生活様式や働き方が変化する中で、従来の一括的な雇用や採用のあり方を続けるのか、職務を起点に人材を捉え直すのかが課題になりました。採用市場の変化に対応するため、ジョブ型雇用の意味を改めて問い直す必要が生じています。
掲載されたイベント・セミナーでは、KDDI株式会社の取り組みを題材に、ジョブ型雇用の本質と採用への影響が議論されました。白岩徹氏、中村天江氏、岡安伸悟氏は、単に制度を導入することではなく、なぜジョブ型が必要なのかを考える方向性を示しています。採用においても、職務や役割を明確にし、ニューノーマル時代に適した雇用制度と人材の接続を検討することが解決方法として提示されました。
一方、2021年の対象素材には、導入企業の採用成果を示す事例や数値はありません。KDDI株式会社のジョブ型雇用に関する取り組みは議論の題材として紹介されていますが、対象素材だけでは、採用数、採用期間、定着率などの導入後の定量成果は確認できません。
2021年は、分析期間の出発点です。以降の年に見られるデジタル人材や理系人材の採用競争、能力測定、採用ブランディングといった具体的な施策に先立ち、まず雇用と採用の基盤を職務起点で捉え直すことが主要な論点になっていました。
総括
2021年の評価軸は、ニューノーマルに適応する雇用制度と職務の明確化でした。2022年には、経営戦略に必要な人材要件を定め、能力を測定し、採用後の定着まで設計する段階へ進みました。2023年には、候補者から選ばれるための発信、経営者の関与、新卒や外部人材への対象拡張が加わっています。
2024年にはさらに、採用後の活躍や離職までをデータで捉え、採用プロセス全体を検証する方向が示されました。ただし、対象素材では各年とも導入後の定量成果を確認できる企業事例はなく、解決方法の提示に比べ、採用成果を共通の指標で検証する段階にはなお差が残っています。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「人材採用の成功事例」をテーマにした講演情報と、各社が公開している導入事例を元に傾向を分析しています。
編集者:ビズスタ市場調査チーム