エンゲージメントとは、従業員が仕事や組織に意義を感じ、主体的に貢献しようとする状態です。働き方や価値観が多様化し、人材流動化やAI活用が進む今、個人の意欲を組織の成果や定着につなげることが大企業の課題になっています。
このレポートは、2019〜2026年開催の「エンゲージメント」に関連する講演をもとに作成されています。掲載講演の関心は、働き方や制度の見直しから、データによる状態把握と施策改善、さらにAIによる分析・自動化へと広がっています。一貫しているのは、測定にとどまらず、対話や行動変容を通じて成果につなげる問題意識です。近年は特に、レコグニション(称賛)データ、エンゲージメントサーベイ、因果分析、心理的安全性、キャリア自律の議論が増えています。代表登壇者には、山中麻衣氏、皆川恵美氏、守島基博氏、田中研之輔氏、仙石実氏がいます。
2025年(測るエンゲージメントから、日常の接点を変えるエンゲージメントへ)
2025年の企業課題は、エンゲージメントを数値で把握するだけでは、現場の行動や組織文化が変わらないことでした。人的資本経営の文脈では、エンゲージメントを事業成果につなげる「戦略実行力」が問われています。加えて、出社回帰によって、従業員を単にオフィスへ戻すだけでなく、出社したくなる理由や、職場で自然に会話が生まれる環境をどうつくるかが課題になりました。経営と現場の対話不足、心理的安全性、管理職と部下の認識差も引き続き重要な論点です。
解決策は、サーベイや制度を導入することから、日常のコミュニケーションや職場体験を設計することへ広がりました。山中麻衣氏は、12,870社のデータをもとに、従業員エンゲージメントを組織力の把握にとどめず、人的資本経営の成果につなげる方法を解説しています。また、経営の想いを情報として伝えるだけでなく、社員一人ひとりの仕事やキャリアと結び付けることも重視されました。心理的安全性については、可視化した結果を職場改善につなげる考え方が示され、AIと動画を組み合わせた研修・ナレッジ共有、AIを活用した対話力向上なども登場しました。ただし、2025年の掲載情報では、これらのAI活用によるエンゲージメントの定量成果までは確認できません。
実装と成果が比較的明確なのは、株式会社ヒューマンアジャストと株式会社日比谷花壇です。株式会社ヒューマンアジャストは、株式会社HRBrainの組織診断サーベイを起点に事業所ごとの課題を可視化し、個別面談と経営層によるYouTube動画で全社の意見に回答しました。その結果、正社員の離職率は約18%から約13%に低下しました。株式会社日比谷花壇は、株式会社HRBrainのサーベイと独自のバリューシートを組み合わせ、1on1を約40%から約80%へ倍増させました。サーベイスコアは72.5Pから73.4Pに上がり、離職率も12.5%から8.0%へ4.5ポイント改善しています。一方、株式会社ワコールは顔写真を含む約4,000名の情報を共有し、従業員同士の信頼関係づくりを進めましたが、確認できる成果は主にコミュニケーション基盤の整備です。
2024年は、サーベイ後のPDCA、1on1、キャリア自律、タレントマネジメントなど、課題を特定して施策へ移す方法論が中心でした。2025年はそこから一歩進み、出社・対話・経営メッセージ・職場体験を組み合わせ、エンゲージメントを日常の運用として高める方向へ変化しています。もっとも、成果が離職率やスコアとして確認できる事例がある一方、社食や社長のおごり自販機などの施策は、コミュニケーション活性化を狙った実装段階です。2025年の到達点は、エンゲージメントを「測定する指標」から「現場の接点を通じて継続的に改善する経営課題」へ位置付け直したことです。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「エンゲージメントの成功事例」をテーマにした講演情報と、各社が公開している導入事例を元に傾向を分析しています。
※導入事例の参照:株式会社ヒューマンアジャスト「離職率が18%から13%へ減少! 『顔が見える動画』でサーベイに応え、 接骨院業界を牽引する成長し続ける組織へ。」、株式会社日比谷花壇「1on1実施率が倍増、離職率は4.5%減。従業員の『過去と未来』をつなぐ、サーベイ起点の戦略的人事とは?」、株式会社ワコール「株式会社ワコール|カオナビ導入事例」
編集者:ビズスタ市場調査チーム