新卒採用は、将来の事業を担う人材と企業が接点を持ち、入社後の活躍までを見据えて関係を築く取り組みです。少子化や採用活動の早期化によって母集団形成が難しくなり、内定辞退、配属後の定着・戦力化まで含めて、採用の設計を見直すことが企業の課題になっています。
このレポートは、2021〜2026年開催の「新卒採用」に関連する講演をもとに作成されています。関心は母集団形成や選考の効率化から、内定承諾、入社後の定着・戦力化、採用を起点とした関係構築へ移っています。一貫する問題意識は、採用数を満たすだけでは企業と学生のミスマッチを解消できないことです。近年は特に、歩留まりの定量管理、現場社員の採用参画、採用マーケティングと自動化、第二新卒の活用が具体的に議論されています。
採用数の確保から、入社後まで見据えた関係構築へ
2026年に顕在化した課題は、採用活動の長期化と人材獲得競争の激化です。掲載された講演では、優秀な人材をめぐる競争に加え、採用活動の早期化、新卒採用と中途採用の並行化が進み、従来の人事主導型採用では限界があると示されています。母集団形成に苦戦し、採用コストが膨らむ状況に対しては、新卒枠の維持だけでなく、第二新卒にも目を向ける必要性が提起されました。また、内定者と直接会えない期間のコミュニケーション、内定辞退、入社後の定着と戦力化も課題として並んでいます。
解決方法としては、採用を入社者の選別だけでなく、個人と会社の関係構築の起点と捉える発想が示されています。服部泰宏氏は、上田あきは氏、山脇昭彦氏、川内正直氏らとともに、企業への共感者を生み出す「エントリーマネジメント」の考え方を提示しています。具体策として、北海道大学の亀野淳氏と藤田拓秀氏の講演では、社員訪問などを通じて現場が採用に参画し、学生と社員の相互理解を促す「現場参画型」採用が示されました。草深生馬氏は、採用プロセスの歩留まりを細かく把握し、PDCA(計画・実行・評価・改善)を定量的に回す方法を解決策として説明しています。さらに、会えない期間の内定者を「社会人0年目」と捉え、採用マーケティングと自動化で継続的に接点を持つ方法や、HRBP(事業部門に寄り添う人事担当者)を軸に事業部単位でオンボーディングを最適化する方向性も示されています。
一方、2026年の素材には、導入企業名、導入前の課題、実装内容、導入後の定量成果を一続きで確認できる導入事例はありません。そのため、大和ハウス工業、川崎重工業株式会社の取り組みは、採用を通じた関係構築の実践例として紹介されていますが、内定辞退率や入社後の定着率などの成果が出たとは断定できません。同様に、現場参画型採用、歩留まり管理、内定者フォローの自動化についても、2026年の掲載情報から確認できるのは解決方法や提案の内容までです。株式会社学情の講演では280万人のデータをもとに第二新卒の価値観や動機付けを扱い、株式会社Deep Growth Partnersの講演では1,000社超の支援実績をもとに成功企業の共通点を扱っていますが、個別企業の導入後成果は確認できません。
2025年との違いを詳細に比較できる素材はありませんが、2026年は採用活動そのものの改善にとどまらず、学生との関係を継続して育てること、現場や事業部を巻き込むこと、入社後の定着・戦力化までを採用設計に含めることが、より明確に解決の方向性として示されています。
2025年
課題として前面に出ているのは、新卒採用の早期化と、Z世代の価値観への対応です。掲載された講演では、大学入試の変化にも目を向けながら、学生の傾向を捉え直し、従来の採用計画を組み替える必要性が示されています。採用市場の変化だけでなく、学生がどのような経路で企業を知り、何を基準に選ぶのかを踏まえた設計が求められています。
解決方法として示されたのは、学生の行動変化を起点にした新卒採用戦略の設計です。株式会社ベネッセi-キャリアの矢竹秀行氏は、大学入試の変化とZ世代の傾向、採用の早期化を結び付け、母集団形成や接点づくりを従来の時期・方法のまま運用しない考え方を示しました。ただし、対象年の素材では、具体的な施策の実装内容や導入後の成果までは確認できません。
対象年の素材には導入事例がなく、新卒採用における導入後の定量成果は確認できません。したがって、2025年については、学生の変化を把握したうえで採用設計を見直す方向性が示された段階と整理できます。
前年までにもZ世代、採用の早期化、母集団形成は論点になっていましたが、2025年は大学入試の変化を採用トレンドの変化要因として捉え、学生理解の入口を広げようとしている点が特徴です。採用施策そのものの成果を示す段階ではなく、採用戦略を設計する前提条件の見直しが強調されています。
2024年
課題は、売り手市場と採用活動の早期化・長期化が同時に進み、母集団形成、選考途中の離脱、内定辞退、入社後の早期離職までが一続きの問題になっていることです。学生の応募数が減少傾向にあるとの説明に加え、認知度の低い企業が短期間で企業選びをする学生に届きにくいことも示されています。さらに、理系・IT人材では、専門性の高い学生をめぐる競争が激しく、人事だけでは技術や職種の魅力を伝えにくい課題が浮かび上がっています。
講演で示された解決方法は、学生との接点を増やすだけでなく、接点ごとの体験と情報の質を設計することです。白岩ゆりえ氏や田中義紀氏は、学生の思いと自社のMVVをつなぐ「共感型採用」を示し、江崎グリコ株式会社の香田小百合氏、TOTO株式会社の坂田明子氏らの講演では、学生の本音と候補者体験を軸に採用を見直す方向が示されました。株式会社エン・ジャパンの皿田彩乃氏は採用ブランディング、株式会社インタツアーの五十嵐みなみ氏はSNSの利用実態に基づく情報発信、株式会社VARIETASの倪曄氏は生成AIによる採用業務の効率化を取り上げています。
対象年の素材では導入事例がなく、講演で紹介された方法が導入企業の成果として確認されたわけではありません。三和建設株式会社については、森本尚孝氏や松本孝文氏の講演で、社員数が7年間で2倍近くに増え、新卒社員の入社3年以内の離職率が2020年採用以降「0%」と継続している取り組みが紹介されています。ただし、これは講演で示された同社の実践内容であり、対象年の導入事例として整理できる定量成果ではありません。対象年の素材では、導入後の成果を横断的に確認することはできません。
前年と比べると、採用の焦点が「早期に学生と接触すること」から、接触後に学生の共感や入社意欲をどう維持するかへ広がっています。加えて、MVV、候補者体験、SNS、生成AI、大学・研究室との連携など、採用活動をマーケティングやデータ活用、業務設計と組み合わせる提案が増えました。採用担当者だけで完結させず、現場社員やエンジニアを巻き込むことも、理系・IT人材の採用方法として示されています。
2023年
2023年に顕在化したのは、従来の「たくさん集めて選ぶ」採用が機能しにくくなったことです。エントリー数の減少、内定辞退、採用活動の早期化に加え、優秀な学生ほど早く動く傾向が課題として示されました。特にITエンジニア、AI・データ分析人材、理系学生では、企業側が待っているだけでは接点を持ちにくく、認知度の低い企業は母集団形成で不利になりやすい状況です。
解決方法としては、対象を絞り、早期に接触し、学生の動機形成を継続する採用が示されました。草深生馬氏は早期の仕込みと学生データに基づく採用計画を、株式会社i-plugの小野悠氏は大量母集団ではなく必要な学生とのマッチングを示しています。株式会社RECCOOの林晃佑氏はコミュニティ、株式会社インタツアーの五十嵐みなみ氏はSNS、株式会社ワンキャリアの富永果歩氏はChatGPTへの向き合い方を取り上げました。さらに、株式会社アローリンクの蘓伸太郎氏は、早期接触後の感情や志望度を高める設計を、株式会社テックオーシャンは理系学生に合わせたターゲット戦略とコミュニケーション設計を示しています。
対象年の素材には導入事例がなく、導入後の定量成果は確認できません。講演では、株式会社アローリンクの事例として内定承諾率を45%から70%へ改善したことや、株式会社RECCOOの講演でターゲット大学の採用人数を0人から12人にした事例が紹介されていますが、いずれも講演で示された実践例です。本レポートでは、導入事例として確認できる成果とは区別し、2023年に示された解決方法の具体例として扱います。
前年と比べると、採用の議論がオンライン化への対応や候補者体験の改善から、学生を見つける前段階の設計へ移っています。誰に、いつ、どのチャネルで接触するかをデータで定め、コミュニティ、SNS、スカウト、インターンシップなどを組み合わせる考え方が強まりました。また、採用担当者の業務効率だけでなく、経営課題に必要な人材を定義し、採用後の活躍まで見据える視点が明確になっています。
2022年
2022年は、採用活動の早期化・長期化によって、採用の入口と入社後の定着を同時に考えなければならない状況が顕在化しました。学生との相互理解が不十分なまま早期に内定を出すことで、内定辞退や早期離職につながる懸念が示されています。オンライン採用によって接点は増えた一方、企業の雰囲気や仕事の実態を伝えきれず、選考時の評価と入社後の活躍にギャップが生じる課題も取り上げられました。
講演では、適性検査やデータ分析による見極め、エンゲージメントを高める採用、候補者体験の改善、採用マーケティングと採用ブランディングが解決の方向性として示されました。理系人材については、一般社団法人エッジソン・マネジメント協会や株式会社LabBaseがジョブ型・職種別採用を、株式会社ギブリーが配属までを考えたデジタル人材の採用プロセスを取り上げています。SNSや動画による情報発信も広がり、株式会社リソースクリエイションの小笠原寛氏は、TikTokやInstagramを活用した採用広報を紹介しました。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社の小幡寛斉氏は、2022年度からの事業会社制への移行に伴い、事業会社ごとの職種別選考を導入した取り組みを紹介しました。また、青山商事株式会社の林浩行氏の講演では、企業イメージに依存せず、ジョブ型採用によって採用ターゲットや選考フローを見直す考え方が示されています。ただし、対象年の素材には導入事例がなく、これらの取り組みを含め、導入後の定量成果は確認できません。
前年と比べると、採用活動をオンラインへ移すこと自体よりも、オンライン環境で生じる見極めの難しさ、相互理解の不足、内定後の離脱が中心課題になりました。さらに、採用の対象も総合職中心から、デジタル人材、理系人材、職種別人材へと細分化されています。2022年は、母集団の量を増やすだけでなく、採用要件、職種、配属、入社後の育成までをつなげる設計が示された年です。
2021年
2021年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、説明会や面接、内定者フォローを含む新卒採用のオンライン化が急速に進んだことが課題として顕在化しました。学生と直接会えないなかで、企業の雰囲気や仕事の実態をどう伝えるかが問われ、オンライン化による接点の拡大と、理解不足によるミスマッチが同時に起きています。加えて、事業環境の変化に合わせて、どのような人材を採用すべきかを見直す必要も示されました。
講演で示された解決方法は、動画や録画説明会、オンライン面接、個別オファーなどを使い分け、学生との接点を設計することです。株式会社LOCUSの瀧口豪氏は、採用動画を説明会以外にもYouTubeやSNSで活用し、効果検証まで行う考え方を示しました。株式会社i-plugの阿部恵太氏は、学生データをもとにターゲティングし、インターンシップに頼らず個別オファーで早期接触する方法を紹介しています。候補者体験の改善、内定者から始めるキャリア開発、ストレスへの対処力やレジリエンスを含む人材の見極めも、解決の方向性として提示されました。
先端IT人材については、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の延谷直哉氏らの講演で、クラウド、AI、IoTなどを背景に、ソフトウェアエンジニアやAI人材を新卒から採用する戦略が示されました。また、株式会社コンセントの新卒採用サイト制作では、Adobe XDの共同編集機能を使い、リモート環境でデザイナー、ディレクター、エンジニアが作業状況を共有する事例が紹介されています。ただし、対象年の素材には導入事例がなく、新卒採用における導入後の定量成果は確認できません。
2021年は分析期間の出発点であり、前年との比較は行いません。素材からは、採用活動をオンラインへ移行すること、学生との接点を動画やデータで補うこと、採用後の定着や活躍まで見据えて人材要件を捉え直すことが、当時の主要な解決の方向性として読み取れます。
評価軸の広がり
2021年の中心は、会えない状況でも採用を継続するためのオンライン化と接点の確保でした。その後、評価軸は母集団の量だけでなく、ターゲットの精度、学生の共感や候補者体験、内定承諾、入社後の定着・活躍へ広がっています。2024年以降は、MVV、職種、大学・研究室、SNS、生成AIなどを組み合わせ、採用活動全体を設計し直す方向が強まっています。
一方、対象期間の素材には導入事例がなく、講演で紹介された実践例を除けば、導入後の定量成果を確認できる企業事例はありません。したがって、解決方法の高度化は確認できるものの、それが各社の新卒採用成果にどこまで結び付いたかは、別途導入事例による検証が必要です。
※登壇者の氏名・所属・役職は講演開催当時の情報です。現在の所属・役職とは異なる場合があります。
※本レポートは、ビズスタに掲載された「新卒採用の成功事例」をテーマにした講演情報と、各社が公開している導入事例を元に傾向を分析しています。
編集者:ビズスタ市場調査チーム